核兵器禁止条約への署名及び批准を求める会長声明
1 2022年(令和4年)1月22日、核兵器禁止条約(以下、「本条約」という。)が発効してから1年が経過した。発効後1年が経過した現在、本条約の批准国・地域は、発効時の50か国・地域から59か国・地域に拡大したが、世界で唯一の戦争被爆国である日本は、未だ、本条約への署名及び批准を行っていない。
2 本条約は、核兵器の使用が破壊的な非人道的結末をまねくことを確認するとともに、核兵器の開発、実験、生産、保有、使用、使用の威嚇などを全面的に禁止(1条)することで、核兵器の完全廃絶を目指すものである。
本条約の前文には、「核兵器使用の犠牲者(被爆者(英文では「hibakusya」))と核実験の影響を被った被災者の受け入れがたい苦難と被害に留意し」という一節が明記され、被爆者の苦しみと被害に触れることで、核兵器廃絶に向けて広島・長崎の被爆者らが行ってきた努力にも思いがはせられている。
世界で唯一の戦争被爆国であるとともに、憲法前文に平和的生存権を謳い、憲法第9条に戦争の放棄と戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義を定める日本は、本来、率先して核兵器禁止条約への署名及び批准をし、核兵器保有国と非核兵器国の橋渡しを担っていく立場にある。
3 しかしながら、米国の「核の傘」の下にある日本政府は、本条約発効1周年に先立つ2022年(令和4年)1月21日、米国との共同声明を発出したが、「核兵器不拡散条約(NPT)に対するコミットメントを完全に再確認する」との表明を行うにとどまり、核兵器禁止条約への署名及び批准については一切言及をしていない。
日本政府は、これまで、「北朝鮮のように核兵器の使用をほのめかす相手に対しては通常兵器だけでは抑止を効かせることは困難であるため、日米同盟の下で核兵器を有する米国の抑止力を維持することが必要」(外交青書2018・特集「核兵器禁止条約と日本政府の考え」参照)との立場を表明し、本条約への署名及び批准を拒み続けている。
4 核の抑止力による平和維持は、「相手が核攻撃するかもしれない」という相互不信と威嚇を前提とするものであり、本来の平和からは大きく逸脱している。核の抑止力という力の支配に依存する安全保障が恒久的な平和をもたらすことにならないことは、歴史が証明するところである。
本条約を批准した59カ国・地域に核兵器保有国は1つも含まれておらず、実効性を疑問視する意見もあるが、同じく主要保有国が禁止条約に加わっていない対人地雷全面禁止条約やクラスター爆弾禁止条約では、禁止条約発効後、対人地雷やクラスター爆弾の使用数が着実に減少をしており、非締約国も含めて確実な成果を挙げている。
日本政府は、核の抑止力という力の支配に依存する安全保障から、「核兵器禁止条約」という法の支配による安全保障に政策の転換を図るべきである。
5 2017年(平成29年)3月、ニューヨークの国連本部で開かれた核兵器禁止条約交渉会議の最終日、空席の日本政府代表部の机上に置かれた折り鶴には、「Wish you were here」(あなたにここにいて欲しい)という言葉が書かれていた。唯一の戦争被爆国であり核兵器廃絶のために努力をしてきた日本に向けた世界の人々が寄せる思いである。
戦争被爆国として核兵器の恐ろしさを身をもって知る日本こそが、核なき世界を実現するうえで主導的役割を果たし、核兵器保有国と非核兵器国の橋渡しを担っていかねばならない。
6 今般、ロシア連邦が国連憲章及び国際法に違反してウクライナに侵攻した。プーチン大統領は演説で「現在のロシアは世界最強の核大国の一つ」であると述べてNATOの軍事介入を牽制しているが、これは核兵器の使用の威嚇を違法な主権侵害に利用するものであり、強く非難されなければならない。
7 当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を担う弁護士の団体として、日本政府に対し核兵器廃絶に向けた主導的役割を果たすことを求め、その第一歩として、速やかに核兵器禁止条約への署名及び批准をすることを強く要望する。
2022年(令和4年)3月1日
沖縄弁護士会
会長 畑 知 成