新型コロナウイルス感染症に対する在日米軍の杜撰な検疫体制と日本政府の対応に強く抗議するとともに、在日米軍への検疫法の適用を明記する日米地位協定の改定を求める会長声明
昨年12月17日、米海兵隊基地キャンプ・ハンセンで大規模クラスター(感染者集団)が判明するとともに、同基地日本人従業員から県内で初めて新型コロナウイルスの新変異株であるオミクロン株が確認された。
その直後から沖縄県は、在沖米軍の長である四軍調整官及び日米両政府に対し、米国から沖縄県への軍人の異動停止、PCR検査の実施、外出禁止、マスク着用徹底等を繰り返し強く求めていた。しかし、在日米軍も日本政府もその対応は鈍く、米軍は26日に出国時の検査を、30日に入国直後の検査を開始、年が明けて1月6日にようやく林芳正外相が外出制限を要請、10日から外出制限実施、基地内外でのマスク着用義務化となった。感染拡大防止のために一刻を争う事態において、あまりにも遅すぎる対応といわざるを得ない。
この間、オミクロン株の感染は急速に拡大し、新型コロナウイルス感染者数は激増し続けている。県内でのオミクロン株の拡大について、沖縄県は国立感染症研究所の解析等を踏まえ米軍基地由来のものと指摘している。全国の米軍基地やその周辺地域においても感染が拡大し続けている。
今回の事態における最大の問題点は、在日米軍が出国時および入国直後の検査を行っていなかったことである。クラスター発生を受けて外務省が米軍に問い合わせたところ、米軍は従前行っていた出国時検査を昨年9月3日から免除していたことが発覚した。また、入国直後の検査はそもそもしていなかった。日本政府は、全ての国と地域からの外国人の新規入国を原則停止する水際対策を昨年11月30日から実施していたが、在日米軍の上記検査免除については全く把握していなかった。厳しすぎると批判されつつも万全を期したはずの水際対策は、沖縄をはじめ全国各地にある米軍基地という特殊な存在につき当然なすべき考慮が全く欠如していた失策というほかない。
かかる事態を招いた根本にあるのは日米地位協定である。検疫法は、国内に常在しない感染症の病原体が船舶又は航空機を介して国内に侵入することを防止するとともに、船舶又は航空機に関してその他の感染症の予防に必要な措置を講ずることを目的とする法律であるところ、同法は、新型コロナ感染症を検疫感染症と定め、新型コロナ感染症の患者及びその疑いのある者に対して感染防止に必要な措置を行い、患者には隔離を、疑いのある者には停留を求めることができるものとされており、もって国内への検疫感染症の侵入を防止することを可能としている。にもかかわらず、日米地位協定には在日米軍に対する検疫法の適用が明記されていない一方で、同協定の実施に関する協議機関である日米合同委員会の数次にわたる合意と「外国軍用艦船等に関する検疫法特例」により、事実上在日米軍に対する日本側の検疫が免除されてしまっている。前述のとおり、オミクロン株が沖縄県内に侵入し、急激な感染拡大をもたらした要因は、検疫法に基づく検疫の免除にあることは明白である。
このように、検疫をいつどのように行うかについて国としての一貫した方針を採らず、在日米軍に関してその裁量に委ねることは、基地周辺地域のみならず日本全国の市民の健康や安全を脅かす事態を招くものである。コロナ禍は依然収束の兆しはなく今後も続く。今回のような事態を二度と生じさせないためには、日米地位協定を改定し、在日米軍に対して検疫法が適用されることを明記し、在日米軍に対する検疫を日本政府がその権限と責任において実施できるようにすべきである。
少しずつ回復しつつあった沖縄県経済、平穏な日常を取り戻してきていた県民生活がまたもや暗澹たる状態に陥ろうとしている。在日米軍のあまりにも杜撰な検疫体制と、それを看過し、事態発覚後の対応もあまりに鈍く遅きに失したというほかない日本政府の対応に対して強く抗議するとともに、在日米軍に対する検疫法の適用を明記する旨の日米地位協定の改定を求める。
2022年(令和4年)1月14日
沖 縄 弁 護 士 会
会 長 畑 知 成