成年年齢引下げによる若年者の消費者被害拡大を防止する施策実現等を求める会長声明
民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号。以下「本法律」という。)の2022年(令和4年)4月1日の施行日まで1年を切った。
民法の成年年齢引下げについての2009年(平成21年)10月の法制審議会の意見は、成年年齢を18歳に引き下げるのが適当であるとしながらも、消費者被害の拡大などの様々な問題が生じるおそれがあるため、引下げの法整備を行うには、⑴若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現を実現し、⑵施策の効果が十分に発揮され、⑶施策の効果が国民の意識として現れることが条件であるとされていた。
この意見を受けて2018年(平成30年)の通常国会に法案が提出されたが、上記の条件整備のほとんどが達成されていなかったため、本法律の施行日は、成立後3年10か月という異例の長期の準備期間をおいた2022年(令和4年)4月1日とされた。
また、本法律成立に際しては、参議院法務委員会において全会一致で附帯決議がなされたが、そこでは、本法律の施行にあたり、①知識、経験、判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)を創設すること(法成立後2年以内)、②若年者の消費者被害を防止し救済を図るために必要な法整備を行うこと(法成立後2年以内)、③マルチ商法等への対策について検討し、必要な措置を講ずること、④消費者教育の充実を図ること、⑤18歳、19歳の若年者への周知徹底や社会的周知のための国民キャンペーン実施を検討すること、⑥施行日までに措置の実施、効果、国民への浸透について検討し、その状況を公表すること(以下「本件各施策」という。)などが求められた。
本件各施策は、本法律が法制審議会の示した前提条件を達成しないまま成立したという状況を踏まえ、施行にあたって格別の配慮をすべき施策として示されたものであった。
ところが、成立から3年が経過し、施行まで1年を切った現時点においても、本件各施策のいずれもがいまだに十分に実施されているとはいいがたい。
特に、18歳、19歳の若者が未成年者取消権を喪失することによる若年者の消費者被害拡大に対応する施策は急務であるが、必要不可欠な施策である前記①のつけ込み型不当勧誘取消権の創設は、附帯決議に明示された期限を既に経過しているにもかかわらず、その目途も立っていない。
また、④の消費者教育についても、消費者庁、文部科学省、法務省、金融庁が連携して「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム」等が実施されているものの、消費者被害の予防につながる実践的な消費者教育が十分に行われているとは言い難い。
さらに、⑤の成年年齢引下げ自体の周知はされていても、その弊害として未成年者取消権を18歳で失うことの意味や若年者の身近に起こりうる消費者被害についての情報等の周知が十分実施されているとはいえない。
上記状況を踏まえ、当会は国に対し、上記附帯決議に示された本件各施策の速やかな実現を求めるとともに、仮にこれが実現されないときは、少なくとも未成年者取消権の行使可能年齢を引き下げる部分について施行日を延期することを求める。
2021年(令和3年)7月1日
沖縄弁護士会
会 長 畑 知 成