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最低賃金額の大幅な引上げと地域間格差是正及び中小企業支援強化を求める会長声明

最低賃金額の大幅な引上げと地域間格差是正及び中小企業支援強化を求める会長声明


1 令和6年度の最低賃金額
厚生労働大臣は、近いうちに、中央最低賃金審議会(以下「中央審議会」という。)に対し、2025年(令和7年)度地域別最低賃金額改定の目安についての諮問を行
い、中央審議会から答申が行われる見込みである。昨年7月25日、中央審議会は、各都道府県の引上げ額の目安について、全国加重平均50円の引上げ(全国加重平均1054円)という答申を行った。これを受け、沖縄地方最低賃金審議会(以下「沖縄地方審議会」という。)は、56円の引上げの答申を行い、沖縄県における最低賃金額は、2024年(令和6年)10月9日以降952円となった。


2 最低賃金額の更なる引上げの必要性
(1)労働者の生活の安定確保
昨年沖縄地方審議会が引上率6.25%の引上げの答申を行ったことは、これまで当会が毎年求めてきた最低賃金額の引上げに沿うものであって評価できる。
しかしながら、時給952円では、1日8時間、週40時間、月173時間働いたとしても、月収16万4696円、年収約197万円にしかならない。
この収入では、労働者が賃金だけで自らの生活を維持し、将来のための貯蓄をしていくことは極めて困難であり、最低賃金法第1条が目的として掲げる「労働者の生活の安定」を図ることは困難である。


(2)物価の上昇
近年、食料品や光熱費など生活関連品の物価の上昇が続いており、消費者物価指数が令和2年を100とした場合、令和4年、5年、6年は、それぞれ、102.7、106.6、110.1となっている。また、特に生活に欠かせない食料品、殊に生鮮食品については、令和2年を100とした場合、令和4年、5年、6年は109.1、115.4、123.2となっている。全国に比しても、沖縄県は輸送費が高いことから、全国的にも消費者物価は高く、直近(令和5年)の消費者物価地域差指数は、総合で99.6(全国13位)、食料に限れば沖縄県は全国で最も高く、106.4である。このような物価上昇の継続は、特に低所得世帯の生活に深刻な影響を及ぼしており、労働者の生活を守るために、労働者の実質賃金の上昇を実現する必要
がある。そのためにはまず最低賃金額を大きく引き上げることが何よりも重要である。


(3)子どもの貧困の抜本的な解決に資すること
近年、沖縄県において積極的に取り組まれている子どもの貧困についても、これを抜本的に解決するためには子育て世代の所得向上が不可欠であり、そのためにも最低賃金額の引上げが直接的かつ効果的である。


(4)政府の最低賃金引上げ目標
政府は、2025年(令和7年)6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)において、最低賃金について、「2020年代に全国平均1,500円」という目標を明記した。このような政府の目標達成のためにも、最低賃金の引上げを加速させなければならない。


(5)最低賃金引上げによる影響について
最低賃金の引上げによる中小企業の経営圧迫を懸念する見方もある。しかしながら、令和6年度の改定にあたり、徳島県は目安額50円を34円上回る84円の引上げを決定し、1時間当たり980円の最低賃金額となったが、本年2月に実施した日本弁護士会連合会の徳島県調査において、雇用情勢、経営状況において大きな変化が見られておらず、最低賃金の引上げによる弊害が生じていないことが確認されている。後述する中小企業支援策の強化がなされれば、最低賃金引上げによる経営状況への影響はさらに小さくなると思われる。


(6)小括
以上からすれば、今年度も更なる最低賃金額の引上げが必要である。


3 最低賃金額の地域間格差是正の必要性
(1)東京都と沖縄県の最低賃金額の格差
最低賃金額の地域間格差が依然として大きいことも見過ごすことのできない重大な問題である。2024年(令和6年)の最低賃金は、最も高い東京都で時給1163円であるのに対し、沖縄県では時給952円であり、その間には211円もの開きがある。年収にすると、沖縄県は上記のとおり約197万円なのに対し、東京都は約241万円であり、その差は44万円にもなる。最低賃金額の高低と人口の転出入には相関関係があるところ、最低賃金の低い地方の経済が停滞することにより、地域間の格差が固定、拡大するものであることから、地域経済の活性化のためにも、地方における最低賃金額の引上げによる格差是正が必要である。

(2)労働者の最低生計費の地域間格差がほとんどないこと
また、地域別最低賃金額を決定する際の考慮要素とされる労働者の最低生計費は、地方と都市部との間で、地域間格差がほとんどないことが確認されている。
これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされること等が背景にある。

(3)小括
このような状況も踏まえ、最低賃金額の地域間格差は早急に是正されるべきである。

4 最低賃金額の引上げに伴う中小企業支援策の強化
(1)中小企業に対する支援の必要性
他方、最低賃金額の引上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しては、最低賃金額を引き上げても円滑に事業を継続して雇用の維持が図れるよう十分な支援策を講じることが重要である。特に近年の人手不足を受け、中小企業においては業績が改善されていないにもかかわらず、人手を確保するために賃上げせざるを得ない状況が見られ、中小企業に対する支援は喫緊の課題である。


(2)中小企業に対する支援策
この点、国は、最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策として、専門家派遣・相談等支援事業、業務改善助成金、働き方改革推進支援助成金等の制度による支援を実施しているところであるが、前述のとおり政府が最低賃金引上げ目標を掲げていることに鑑みると、国において、中小企業に対する対策のさらなる拡充が図られるべきである。
具体的には、社会保険料の減免や減税、補助金支給等の即応性・実効性の高い支援策のほか、中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるための取引適正化支援等、長期的継続的に中小企業支援策を強化すべきである。なお、沖縄地方審議会も、昨年最低賃金額の答申の際に、国等に対して実効性のある支援と施策の更なる周知、実施を行うよう付帯決議しているところである。

5 結論
上記のような状況を踏まえ、当会は、中央審議会に対し、最低賃金額の大幅な引上げと地域間格差の是正を、沖縄地方審議会に対し、最低賃金額を大幅に引き上げる旨の答申をすることを、 そして国に対し、中小企業支援策の強化を、それぞれ求めるものである。


2025年(令和7年)6月27日
沖縄弁護士会
会 長 古 堅 豊

 

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