「国家緊急権」とは
Q.最近、報道などで「国家緊急権」という言葉をよく耳にします。「国家緊急権」とは何ですか?憲法改正して「国会緊急権」を創設すると、どのような問題があるのでしょうか。
A.政府内には、東日本大震災を機に、災害対策を理由の一つとして、日本国憲法を改正し「国家緊急権」を具体化した緊急事態条項を創設する必要があるという意見があります。
「国家緊急権」とは戦争や大規模災害など、平時の統治機構では対処できない非常事態において、国家の存立を維持するため国家権力が立憲的な憲法秩序を一時的に停止して非常措置を取る権限を言います。すなわち、国会で議論することなく政府の意思決定のみで市民の権利を制限し、義務を課すことが可能になります。
国家緊急権は一時的でも本来的な憲法の機能を停止するものであり、権力への抑制が不十分となり、私たち一人一人の自由が侵害されかねません。実際にドイツやフランスなどでは国家緊急権が濫用され、国民の権利・自由が制限される道具として使用された歴史があります。また、国家緊急権が規定されていた大日本帝国憲法下の日本においても、国家緊急権の濫用によって国民の人権が不当に侵害された歴史がありました。日本国憲法は、このような歴史を反省し、あえて国家緊急権を規定しませんでした。
もっとも、現在の法律でも内閣総理大臣は災害緊急事態を布告し、必要な措置などを講じることが可能です。大規模災害時の政府の初動対応の問題は、法律を十分に活用できなかった点に起因します。
沖縄弁護士会は、災害対策のために国家緊急権を創設するは必要なく、むしろ立憲主義を破壊して国民の権利・自由を不当に奪う危険性があるため、緊急事態条項を創設することに反対しています。
沖縄弁護士会
会員 赤嶺 朝子
※琉球新報2016年5月17日『ひと・暮らし』面に掲載したものを一部修正しています。