社会に根付いた優生思想 非人道的差別へ厳しい目を
皆さんは旧優生保護法をご存知ですか。優生思想の下、「不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護すること」を目的とした法律で、1948年から96年まで、障がいのある人らに対して強制的に優生手術(不妊手術)や人工妊娠中絶を推進する根拠となりました。
同法は、障がい者らの生存を否定し、憲法13条(個人の尊厳)や14条1項(平等原則)などに反する極めて非人道的かつ差別的な人権侵害をもたらしました。優生手術などの被害者は、全国で約8万4000人に上るとされます。31人の被害者が国家賠償訴訟を提起し、2022年2月に大阪高等裁判所、同年3月に東京高等裁判所が除斥期間(時効)の適用を制限して、国に賠償を命じる画期的な判決を言い渡しました。
19年4月には旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた人に対して、一時金320万円を支給する法律が制定されました。しかし、支給対象に人工妊娠中絶を受けた人が含まれないなど同法は十分な内容ではなく、22年9月現在の認定件数は1000件余りにとどまっています。
旧優生保護法は1996年に「母体保護法」に改正されました。96年はらい予防法が廃止された年でもあります。しかし、旧優生保護法が優生思想を国策として広め、多数の被害を生んできた事実は、社会に優生思想を根付かせ、今なお厳然として存在する障がい者差別につながっています。最近も、北海道のグループホームが結婚や同居の条件として不妊処置を受けるよう知的障がい者に求めてきたという報道がありました。
同法が改正されたから「終わり」ではありません。社会に深く根付いた優生思想とそれに基づく差別に対して、私たちは厳しい目を向ける必要があります。
沖縄弁護士会
会員 上原 智子
※沖縄タイムス2023年1月16日『くらし』面に掲載したものを一部修正しています。