表現の自由と侮辱罪厳罰化
表現の自由と侮辱罪厳罰化
Q.侮辱罪の厳罰化により表現の自由への侵害が危惧されるとの意見があるのはなぜですか。
A.「侮辱」とは、「他人に対する軽蔑の表示」であり、「人に対する社会的評価等を害する危険を含んだ軽蔑の表示がなされれば成立する」と解されています。言語、図画、動作等その方法は問いません。
問題は「侮辱」として処罰対象となる表現の範囲が不明確なことです。例えば、政治家の公約違反に対しインターネット上で「嘘つき」と書込みをした場合は「侮辱」でしょうか。名誉に対する罪としては名誉毀損罪もありますが、名誉毀損罪の場合、その行為が公共の利害に関する事実に係りかつ公益目的であるときまたは公人に関する事実に係るときには、真実だと証明できれば罰せられません。しかし、侮辱罪には同様の規定はなく、公益に関する言論であっても「侮辱」になり得ます。
侮辱罪の現行法定刑は「拘留または科料」であり、強制捜査の対象となるケースは極めて限定的です。しかし、改正案では、「1年以下の懲役もしくは禁錮」と「30万円以下の罰金」が追加されることから、強制捜査の対象が拡大します。公人が批判を抑圧するために告訴を行うなど、侮辱罪が言論統制の手段として利用されれば、処罰や強制捜査を危惧して本来自由であるべき範囲の表現が委縮します。表現の自由への侵害が危惧されるのは、このためです。
今月19日、改正案が衆議院を通過しました。表現の自由は私達が自己実現を図り、民主的な政治を実現する源です。他国でのウクライナ侵攻に関する言論統制を見ても、表現の自由が個人や社会にとっていかに重要かは明白です。右の危惧を払拭することなしに侮辱罪の厳罰化は進められるべきではありません。
沖縄弁護士会
会員 小林 郁子
※琉球新報2022年5月29日『ひと・暮らし』面に掲載したものを一部修正しています。